大学案内タイトル

令和2年度入学祝辞

Menu

読書により知性と感性を育む     

学長  大山 喬史

人として生まれてきた赤ん坊を、人間にまで育てる。その過程で、知性と感性を涵養(かんよう)する。これこそが人間教育。

 脳のニューロン回路は、3歳頃迄に大人の80%位、10歳になるとほぼ大人の状態に近づきます。とすると、その10年間はとても大事な10年と言えます。
 最近、推奨されているのが、幼い頃からの音読です。書物を手にした音読は、正に漢字は目で見る言葉、耳で聞く言葉として、脳に取り込まれます。はじめは読めなくとも、繰り返し聞けば語彙(ごい)として記憶されます。「読書習慣を持っている子は脳の発達がとても良い。大脳の言語半球の神経線維の発達が著しい」(加齢医学研究者:川島隆太)。「何か新しいものを編み出そうと思考を深めていくと、語彙を格納する部位と言葉を扱う部位で脳の際立った活動が始まる」とも。湯川秀樹博士も「創造性の発達には相当量の語彙の蓄積が必要だ」と言われた。創造性というのは、正に語彙力であり、表現力であり、読書が創造力の育成に大きく関与していることが分かってきました。
 私は、できれば文語体を読むことをお薦めします。文語体は格調が高く、きりっとしたリズムが心に響き、記憶に留まりやすく、感性を涵養してくれます。古典、殊(こと)に人間学の書を手にすれば、日常語とは異なる箴言(しんげん)に触れつつ、自分の日常と経験に繋ぎ止めながらの読書となり、自然と思考も深まり、豊かな表現力が育てられるものと思います。これは、自らの信念、自己肯定感の確立にも繋がるものと思います。
 私も数多くの人間学に関する古典、箴言に触れ、どれほど救われてきたか分かりません。老荘は自足の哲学、民衆の哲学とされ、どちらかというと自然主義かと思います。ここでは患者さん目線での医療人たるべき心得を学びました。老子の箴言「上善は水の如し」。私なりに解すると、世の中の様々な事象、他人との関係もそうですが、現実をあるがままに受け入れ、聊(いささ)かも執着すること無く、自分の「弱さ」を素直に認めること。水の流れは周囲の状況次第で姿・形を変えても、岩をも穿(うが)つ「無心の強さ」があります。
 一方、儒学は官吏登用の哲学とされ、自己啓発のための諌(いさ)めであり、リーダー・教員としての心得を学びました。孔子の言葉「人知らずして慍(いか)らず」を解すれば、学問を積み重ね、「自分の弱さ」の事上磨錬(じじょうまれん)に努めれば、恨み・妬み・嫉(そね)みに惑わされることもない。将に「内に省みて疚(やま)しからざれば、夫れ何をか懼(おそ)れん」と、心強い箴言に行き着けます。
 そして本居宣長の言「才のともしきや/学ぶことの晩きや/暇のなきやにより/思いくずをれて/止むることなかれ。とてもかくても/努めだにすれば/出来るものと心得べし」とも。
 どうか皆さんも、大学時代に先師・先哲の箴言に触れ、自身の道づくりの糧にして欲しいと願っております。最後に、相田みつをさんの詩「道はじぶんでつくる/道は自分でひらく/人のつくったものは/じぶんの道にはならない」を贈ります。