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令和元年度卒業祝辞

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会議の進め方:「2・2・6」?

 鶴見大学文学部、歯学部、短期大学部を卒業、また研究科を修了される皆さん、この時を迎えるに当たり、一言お祝いのことばを申し上げます。また、日頃より温かいご支援を賜りましたご家族の方々を労いつつ、併せてお祝い申し上げます。誠におめでとう御座います。
 いよいよ、皆さんは専門職業人として社会に巣立ってゆくことになります。これから皆さんは、ご自身の生涯にどんな夢を描いて、どんな走りをするのでしょうか。皆さんの身近な方々が大きな期待を持って注目しておられます。
 皆さんを今かと待ち受ける社会、そこでは沢山の会議、会合があることでしょう。そんな時の心構えとして、きっと参考になろうかと思いますので、今回は、会議の進め方「2・2・6」についてお話させて頂きます。
 東京医科歯科大学元学長、山本 肇先生から学んだことです。ある委員会を仕切るべく委員長を仰せつかりました。その構成メンバーが示されました。私がその内のお一人を「この先生は、いつも議論の流れを止めてしまうので外して欲しい」とお願いしました。すると山本学長は「2・2・6」を知っているかね」と問われました。私は「2・26事件ですか」と。学長は、「そうじゃない。会議の進め方だよ」と、2・2・6 について説明して下さいました。「どんな議論でも、筋が通っていれば、二割の人は賛成する。反対する人も二割いる。中間の六割は、どちらにしたものか決め兼ねている。そんな時、その反対意見に、自分がどれだけ丁寧に応えられるかが問われる。いろいろな意見が出る度に、自分の思索は自ずと深まり、不安や迷いも消え、自分の考えは確固たるものに深化し、確信と自信に繋がる。実はそれが、中間の六割の人たちへの丁寧な説明を可能にしてくれ、全体の八割の人の合意が得られ、議論を前に進めることができる」という趣旨のお話でした。
 以来会議では、何時もそのことを心掛けてきました。殊に議論が迷走した時、先ず一つに相手を無理に説き伏せようと頑張らないこと、また二つに相手と同じ語勢にならないように努めます。さもないと中間の人たちは路頭に迷うだけで、その会議の雰囲気に飲み込まれ、議論は、本筋とは懸け離れた方向に流され兼ねません。従って目線は中間の人たちに向け、「人」「金」「もの」「時間」という組織の資源を土俵に明示し「何故」「何を」「どうしたいのか」そして「それが組織の発展にどう貢献するのか」を極力丁寧に説明し、「教員」「職員」、時に「学生」との協働の中で、どれだけの知恵と情熱を求めるのか、理解を得るべく努めます。勿論、反論・異論・質問を避けることなく、時には、名指ししてでも極力意見を求めます。きちんと反論してくれる人の言葉は、より自分の曖昧さを明確にしてくれます。反論の多くは視点が違うことに起因することによるものです。時には相手の土俵に上って再思三考することも必要でしょう。反論は自分の思考を吟味し、より深いものにしてくれる大きなチャンスとも云えます。ここで大事なのが「中(ちゅう)する心」、「中庸を得ること」を厭わない気持、比較考量する余裕を持つことです。議論が活発になればなるほど、六割の中間の人たちの思考も活発になり、積極的に議論に参加するようになります。たとえ賛否の意見を云わなくとも、その態度は明確になります。同時に、私自身の考えは確固たるものになり、自分の思うところを存分に、丁寧に説明できます。したがって、理解も得易くなり、心強い応援の意見も出てきます。時には、自分の思案に貴重な提言ともなり、素直に修正もできる会議の雰囲気になります。こうした会議の進め方は、一委員として参加した会議においても然りと云えます。特に、会議が多い今の私にとって、大変貴重なアドバイスを戴いたものと感謝しております。
 最後に、社会に出て往かれる皆さんひとり一人が、それぞれの組織の中で「余人をもって代えがたき人」となることを心より祈念して、お祝いの言葉といたします。

 

令和2年3月  大山 喬史