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平成30年度卒業式式辞

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「比較根性の愚劣」

 鶴見大学歯学部、文学部、短期大学部、また研究科を卒業、修了される皆さんが、この日を迎えるに当たり、一言お祝いのことばを申し上げます。また、日頃より温かいご支援をされてこられたご家族の方々の労をねぎらいつつ、併せてお祝い申し上げます。
 いよいよ、皆さんは専門職業人として社会に巣立ってゆくことになります。これから皆さんは、ご自身の生涯にどんな夢を描いて、どんな走りをするのでしょうか。私だけでなく、皆さんの身近な方々が大きな期待を持って注目しております。
 ここで、これまで私自身が、座右の銘として心に留めてきた、いくつかのことばを贈りたいと思います。
 先ず、哲学者であり、教育者でもあった森信三の言葉に「自分の位置を人と比較せぬがよし。一切の悩みは比較より生ず。比較を絶したる世界へ躍入する時、人は初めて卓立して、所謂、天上天下唯我独尊の極致となる。」とあります。ここで自らが心しておかなければならないことは、自分が「唯我独尊」たれば、他人も同じ「唯我独尊」たることを認めることのできる余裕を持たなければならないことです。
 太宰治は、その著「ダス・ゲマイネ」の中で、「いや、ものごとはなんでも比較してはいけないんだ。比較根性の愚劣。」とも言っております。
 確かに、自分を他人(ひと)と比較することが、一番自分を駄目にするような気がします。人は、つい他人と比較して、負けると「あいつは、頭がいいから」と、挫折、僻み、諦めてしまう。時には、「他人より頑張っている」からと、慢心したり、傲慢になったりして、そこで止まってしまう。才能も環境も他人とは違うということ、それが人社会の端と思って、己の学問(知識、技術、徳を磨くこと)に研鑽を積んでゆくことが大事なのでしょう。
 金子みすずのすばらしい詩を紹介します。
 わたしが両手を広げても/ お空はちっともとべないが/ とべる小鳥はわたしのように/ 地面(じべた)をはやく走れない/ わたしがからだをゆすっても/ きれいな音はでないけど/ あの鳴るすずはわたしのように/ たくさんなうたは知らないよ/ すずと、小鳥と、それからわたし/ みんなちがって、みんないい
 皆違ってそれぞれが満足した存在であること、だから「生きとし生けるものを、まのあたりにして感銘し、心に響く」のでしょう。人の社会においても、人には人それぞれのよさがあるのですから、それを素直に受け入れ、もっと互いに他を認め合って、仲良く生きて往こうということだと思います。
 先ずは、相手のよいところを認めること。そして相手が自分のことを理解してくれているんだと分ると、相手とも解け合うことが出来、一瞬のうちに仲良くなれるものです。まさに、「出逢い、触れ合い、響き合い」です。
 「薔薇ノ木ニ 薔薇ノ花サク。ナニゴトノ不思議ナケレド」(北原白秋)
 ありのままのものを、ありのままに受け入れる豊かな感性を育み、余裕のある人生を切り開いてまいりましょう。

 

平成31年3月14日  大山 喬史